隣り合わせの場所で、ある者は汚損品となった商品の返品処理に追われ、また別の者はそれと同じ商品を得意先に出荷しようとしている。 そして、それをよく見ると、同じ商品の返品と発注を同一の得意先が行っているではないか。
混沌とする流通の現場は企業の利益にも顧客の満足にも直接結びつかない膨大な無駄を発生させている。 この事件をきっかけにDは返品制度への挑戦を始めることになる。
「いらっしゃいませ」「こんにちは」。 顔をあわすすべての社員が礼儀正しく元気なあいさつで来訪者を迎える。
その印象がすべてを表しているといっていい。 Dはそんな社員教育も行き届いた会社である。
北海道札幌市に本社を置くDは、日用雑貨・化粧品卸商社として全国市場シェア第2位を占める。 92年に東京店頭市場に株式公開、売上高は93年に8億円であったものが97年には2006億円に、経常利益も14億円から20億円へと増加させている。
しかも、その間、従業員数を1211人から1630人に、わずか42人しか増やしていない。 取り扱い商品は化粧品、歯磨き、歯ブラシ、石鹸、洗剤などをはじめとするコスメティック、トイレタリーで、単価は比較的低いものである。
取り扱いアイテム数は約3万点に達するという。 同社は国内外約400社の大手メーカーと代理店契約を結び、量販店を中心に(42・9%)、薬局・薬店(18・3%)、雑貨小売店(14・4%)、ホームセンター(13・4%)などに販売している。
そして地理的には北海道全域と東北地方すべてをカバーし、現在、関東地方にも進出し、ようとしている。 舗間の関係のあり方を考えるうえで、その事例は非常に多くのヒントを与えてくれる。

返品はビジネスとの関係でいっても無駄なコストを発生させていたのである。 Dは初代社長のH氏の考え方で、それまで「問屋もメーカーに返品する以上、痛み同社が返品体質に対して疑問を持ち、脱皮を図ろうとしたきっかけは、直接ビジネスとは関係ないところにあった。
ゴミ公害や交通事情の悪化がクローズアップされているとき、「これは商売以前の社会倫理の問題ではないか」と捉えたのが、Dの無返品取引制度挑戦への直接のきっかけであったという。 そのきっかけについては先に触れた通りである。
F氏は次のように考えた。 従来、返品は売り上げの3.4%だといわれている。
91年の売り上げ(約500億円)の4%が返品されると考えれば、20億円にあたる。 これが得意先からD、Dからメーカーに返品される。
それは、4トン車で1050台分に相当する。 この返品の大部分は首都圏に逆送しており、その結果、交通過密や大気汚染、ゴミ公害に加担することになっている。
しかもその中の商品のほとんどが使用可能な商品である。 それが再生されることなくゴミとして処分されている。
これでは、資源の無駄使いである。 それで同社に返品されてきた商品をふるいにかけ使えるものは再び使うようにすれば、資源の無駄使いを避けることができるのではないか、このように考えたのである。
少しは共有しなければならないと、その運賃を全額負担していた。 90年8月から91年7月までの一年で、同社がメーカーへの返品に要した運賃は2千600万円であったという。
しかも、返品という逆流システムはそれ自体、非常に高い費用を発生させる。 返品処理のために相当の人手とスペースがさかれていたのである。
当時、最も多い札幌支店で4名、その他の支店でも約一名は返品処理専門に従事していたという。 卸の仕事は商品をメーカーから仕入れ、小売店に販売するものである。

このメーカーから小売店へという流れについては、ノウハウを蓄積し、ローコスト・オペレーションを達成してきた。 しかし、返品という小売店からメーカーヘという流れに関して卸は、それをローコストで実行するノウハウを蓄積してこなかった。
それは返品が売り上げのわずか3〜4%と捉えられ、それほど重要視されていなかったからである。 返品作業がシステム化されてこなかったため、返品のコストは非常に高くつくようになってしまっていたのである。
もちろんここで紹介したような返品問題に対し、これまで卸売業者が何の対応もしてこなかったわけではない。 特に卸売業者にとっては川下の大型小売店からの返品を減少してもらうことがかねてからの課題であった。
事実、業界団体の全国化粧品日用品卸連合会は業種別に商流合理化委員会を設置し、大型小売店のトップに返品減少のお願い状を届けたり、納入問屋から直接、大型小売店に返品減少の要望を続けていたという。 しかし、それにもかかわらず、時には不良品でないにもかかわらず返品されてきたり、在庫調整と称して返品が行われることがあったという。
このような状況の中、「返品問題は誰が考えてもおかしなこと。 この矛盾は勇気をもって解決すべきもの」とF氏は決断する。
しかも卸からメーカーへの返品をまず問題としたのが画期的であった。 小売から卸への返品を問題とし、小売業者へ返品自粛の要望をする前に、まず卸がメーカーへの返品を取りやめるべきではないかと考えたのである。
91年9月の全社幹部会議の席上で、F氏はDが仕入先にいっさい返品をしないと表明することを進言する。 そのF発言に対して反対意見が次々に返ってきた。
「季節品の返品が多い」「新製品発売による入れ替え作業の返品がある」「棚替えによるシールの貼った商品はどうすればよいか」などである。 しかし、F氏はそれらに対して次のように反論した。

「Dが得意先に返品についてお願いするからには、まず自らがメーカーへの返品をやめなければならないし、それがなければお願いする迫力もない。 第一に、それはDのエゴではないか」そう言って反対を押し切り、「92年4月1日からDはいっさい返品しない」と表明した。
川下から返品は受けるが、メーカーへは返品しないことがここに宣言されたのである。 このF氏の一言で、同社は無返品への具体的活動に踏み出すことになる。
一カ月後、Dは社内でいくつかのチームを編成し、返品問題に関する会議を重ねる。 各チームは返品を少なくする具体策を探った。
そこで手がけたのは返品発生の原因分析であった。 返品発生の原因分析の結果、その原因として挙げられたのは、主に過剰販売、テスト販売といった販売の見込み違いによるものであった。
それに加えて、汚損・破損品、新製品の発売で廃番となった商品の存在、そして物流部門での検品ミス、誤配送などが指摘されたという。 その点についてM情報システム部長は次のように述べている。
「無返品制度の一つの目玉は何かというと売り方の革新なんですね。 売り方が悪いから売り先から返品がくるわけです。

当社としてはお得意先からの返品は受けてもメーカーには返さない。 後を絶ってしまう。
そうなると売り方を変えないと倉庫の中が返品の山になってしまう。 そこにポイントがあるというわけです」。
セールス活動は本来、小売店の店頭を起点に展開されるべきで、「売場(店頭)重視」でなければいけなかった。 しかし、それまでは、メーカーも、卸売も小売業者も、売れない商品、売れ残った商品は返品するという暗黙の前提の中で商売を行ってきていた。

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